オキツノリ Gymnogongrus flabelliformis | ||
作成者:鈴木雅大 作成日:2011年3月3日(2024年6月30日更新) | ||
オキツノリ(興津海苔) | ||
Gymnogongrus flabelliformis Harvey 1857: 332. | ||
紅藻植物門(Phylum Rhodophyta),真正紅藻亜門(Subphylum Eurhodophytina),真正紅藻綱(Class Florideophyceae),マサゴシバリ亜綱(Subclass Rhodymeniophycidae),スギノリ目(Order Gigartinales),オキツノリ科(Family Phyllophoraceae),オキツノリ属(Genus Gymnogongrus) | ||
*1. 吉田(1998)「新日本海藻誌」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),真正紅藻亜綱(Subclass Florideophycidae),スギノリ目(Order Gigartinales),オキツノリ科(Family Phyllophoraceae),オキツノリ属(Genus Ahnfeltiopsis)*Ahnfeltiopsis flabelliformisとして | ||
*2. 吉田ら(2015)「日本産海藻目録(2015年改訂版)」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),スギノリ目(Order Gigartinales),オキツノリ科(Family Phyllophoraceae),オキツノリ属(Genus Ahnfeltiopsis)*Ahnfeltiopsis flabelliformisとして | ||
掲載情報 | ||
遠藤 1911: 613. Fig. 174; 岡村 1921: 128. Pl. 181, Figs 7-9. Pl. 182, Figs 9-14; 1936: 643. Fig. 307; 稲垣 1933: 34; Tokida & Masuda 1959: 88. Figs 10-18. Pl. 2; Mikami 1965: 183. Figs 2, 3; Umezaki 1967: 283-284. Fig. 5; Masuda 1987: 41. Figs 1-3. | ||
Homotypic synonym | ||
Ahnfeltiopsis flabelliformis (Harvey) Masuda 1993: 2; Masuda et al. 1994: 169. Figs 7, 33; 吉田 1998: 776-777. Pl. 3-69, Fig. A; 中庭 2020: 64. | ||
Type locality: 静岡県 下田市 | ||
Type specimen: TCD herb. Harvey (Torinity College, Dublin) | ||
茨城県版レッドデータブック2020年版:絶滅危惧II類 | ||
分類に関するメモ:オキツノリは,Gymnogongrus属の1種として記載されました。Masuda (1993) はオキツノリをGymnogongrus属からAhnfeltiopsis属に移しました。Calderon et al. (2016) は,オキツノリをAhnfeltiopsis属からGymnogongrus属に戻しました。 | ||
撮影地:兵庫県 洲本市 由良(淡路島);撮影日:2017年6月23日;撮影者:鈴木雅大 | ||
撮影地:福岡県 福津市 津屋崎;撮影日:2018年4月18日;撮影者:鈴木雅大 | ||
撮影地:新潟県 佐渡市 三川 腰細城ヶ浜公園(佐渡島);撮影日:2017年4月25日;撮影者:鈴木雅大 | ||
撮影地:神奈川県 藤沢市 江ノ島;撮影日:2014年4月17日;撮影者:鈴木雅大 | ||
撮影地:兵庫県 淡路市 大磯(淡路島);撮影日:2017年3月29日;撮影者:鈴木雅大 | ||
押し葉標本(採集地:静岡県 下田市 須崎 恵比須島;採集日:2014年5月14日;採集者:鈴木雅大) | ||
体の横断面 *雑な切片ですが,横断面において内層が球形から楕円形の細胞から成ることを確認出来ると思います。 | ||
オキツノリは外部形態の変異の激しい種類です。ホソバノヒラサイミ(Besa catenata)やソエエダナシオキツ(B. japonica)などの近似種が同所に分布している場所では,同定に悩むことが良くあります。著者は確実にオキツノリと判断出来るものを選んで採集していますが,臨海実習などで学生が採集したものや,方形枠調査や藻場調査などで採集されたものについては,高さ1cmに満たないものや枝の欠片などを同定しなければならないことがしばしばあります。このようなサンプルだと,スギノリ(Chondracanthus tenellus)やヒラムカデ(Grateloupia livida)のような全く異なる分類群の種類とも区別が付かないことがあるのですが,ホソバノヒラサイミやソエエダナシオキツが分布していないことが分かっていれば,切片を作製することで枝の欠片からでも同定することが出来ます。オキツノリの仲間の体は,皮層と内層から成り,内層部はやや大形の細胞から成り,糸状の細胞を生じません。兵庫県淡路島では,今のところオキツノリ以外のオキツノリ類が確認されていないので,判断に困ったときは横断切片を作製し,本種と同定しています。 | ||
オオマタオキツノリ "Besa divaricata" ? | ||
採集地:愛媛県 松山市 高浜町 白石ノ鼻;採集日:2016年5月21日;採集者:鈴木雅大 | ||
オオマタオキツノリ(Besa divaricata)は,オキツノリに良く似た種類です。オキツノリとは枝の幅が広いことと,色がより赤いことで区別されています(Masuda 1987, Masuda et al. 1994, 吉田 1998)。著者はオオマタオキツノリに相当すると思われるサンプルを静岡県下田市,兵庫県淡路島,愛媛県松山市で採集しており,松山のサンプルにおいてはMasuda (1987)とMasuda et al. (1994)に掲載されている写真にそっくりです。ところが,遺伝子解析の結果は日本各地で採集したオキツノリと一致あるいは近似しており,著者が採集したサンプルはいずれもオキツノリであることが示唆されました。松山のサンプルはオオマタオキツノリであると信じて疑わなかったため,遺伝子解析の結果には大変驚きました。こうなるとオオマタオキツノリという種は存在するのか,存在するのであれば「真の」オオマタオキツノリとオキツノリとの形態的な違いは何なのかを知りたいところです。松山のサンプルがオキツノリだったことで,著者は内心オオマタオキツノリとオキツノリは同種ではないかと思っているのですが,確かめるにはオオマタオキツノリとオキツノリそれぞれのタイプ標本の遺伝子解析が必要です。両種のタイプ標本のサンプルが手に入ればと思いますが,なかなかハードルが高いのが現状です。
Calderon et al. (2016)は,韓国とロシア産のサンプルをもとにオオマタオキツノリをBesa属の所属としました。著者がこれまで調べた日本産オキツノリ類のサンプルの中で,Calderon et al. (2016)が報告している"Besa divaricata"に相当するものはなく,韓国とロシアで"Besa divaricata"と同定しているサンプルが本当にオオマタオキツノリなのか疑わしいと思っています。いずれにしても分類学的検討が必要な種類だと思います。 |
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台湾のオキツノリ | ||
押し葉標本(採集地:台湾 基隆市 潮境;採集日:2009年3月14日;採集者:鈴木雅大) | ||
押し葉標本(採集地:台湾 基隆市 潮境;採集日:2009年5月11日;採集者:鈴木雅大) | ||
台湾沿岸は亜熱帯域に区分されますが,台湾北東部(東北部)では,中国大陸からの海流の影響があるとされ,温帯域に生育する海藻がみられます。オキツノリもその1つで,初めて台湾基隆市の海岸を訪れた際は,見慣れた海藻が多くてビックリしました。 | ||
参考文献 | ||
Calderon, M.S., Miller, K.A., Seo, T.H. and Boo, S.M. 2016. Transfer of selected Ahnfeltiopsis (Phyllophoraceae, Rhodophyta) species to the genus Besa and description of Schottera koreana sp. nov. European Journal of Phycology 51: 431-443. | ||
Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2024. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 30 June 2024. | ||
Harvey, W.H. 1857. Algae. In: Account of the Botanical specimens. (Gray, A., ed.) Narrative of the expedition of an American squadron to the China Seas and Japan, performed in the years 1852, 1853 and 1854, under the command of Commodore M.C. Perry, United States Navy. Volume II - with illustrations. (Anon. Eds), pp. 331-332. Senate of the Thirty-third Congress, Second Session, Executive Document. House of Representatives, Washington. | ||
稲垣貫一 1933. 忍路湾及び其れに近接せる沿岸の海産紅藻類.北海道帝国大学理学部海藻研究所報告 2: 1-77. | ||
Masuda, M. 1987. Taxonomic notes on the Japanese species of Gymnogongrus (Phyllophoraceae, Rhodophyta). Journal of the Faculty of Science, Hokkaido University Series 5, Botany 14: 39-72. | ||
Masuda, M. 1993. Ahnfeltiopsis (Gigartinales, Rhodophyta) in the western Pacific. Japanese Journal of Phycology 41: 1-6. | ||
Masuda, M., Zhang, J.F. and Xia, B.M. 1994. Ahnfeltiopsis from the western Pacific: key, description and distribution of the species. In: Abbott ed. Taxonomy of Economic Seaweeds Vol.4 pp. 159-183. | ||
Mikami, H. 1965. A systematic study of the Phyllophoraceae and Gigartinaceae from Japan and its vicinity. Memoirs of the Faculty of Fisheries Hokkaido University 5: 181-285. | ||
中庭正人 2020. オキツノリ.In: 茨城における絶滅のおそれのある野生生物 蘚苔類・藻類・地衣類・菌類編 2020年版(茨城県版レッドデータブック).p. 64. 茨城県民生活環境部自然環境課,水戸. | ||
岡村金太郎 1921. 日本藻類図譜 第4巻 第7集.東京.*自費出版 | ||
岡村金太郎 1936. 日本海藻誌.964 pp. 内田老鶴圃,東京. | ||
Shibneva, S.Y., Skriptsova, A.V., Semenchenko, A.A. and Suzuki, M. 2020 '2021'. Morphological and molecular reassessment of three species of Besa (Phyllophoraceae, Rhodophyta) from the North-west Pacific. European Journal of Phycology 56: 72-84. | ||
Tokida, J. and Masaki, T. 1959. Studies on the reproductive organs of red algae III. On the development of female organs in Schizymenia dubyi, Gymnogongrus flabelliformis, and Rhodymenia pertusa. Bulletin of the Faculty of Fisheries Hokkaido University 10: 87-96. | ||
Umezaki, I. 1967. Notes on some marine algae from Japan (2). Journal of Japanese Botany 42: 282-288. | ||
遠藤吉三郎 1911. 海産植物学.748 pp. 博文館,東京. | ||
吉田忠生 1998. 新日本海藻誌.1222 pp. 内田老鶴圃,東京. | ||
吉田忠生・鈴木雅大・吉永一男 2015. 日本産海藻目録(2015年改訂版).藻類 63: 129-189. | ||
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