セイヨウアヤギヌ Caloglossa sp. (C. cf. leprieurii) |
作成者:鈴木雅大 作成日:2011年12月16日(2017年9月3日更新) |
セイヨウアヤギヌ(西洋綾絹) |
Caloglossa sp. (C. cf. leprieurii) |
紅藻植物門(Phylum Rhodophyta),真正紅藻亜門(Subphylum Eurhodophytina),真正紅藻綱(Class Florideophyceae),マサゴシバリ亜綱(Subclass Rhodymeniophycidae),イギス目(Order Ceramiales),コノハノリ科(Family Delesseriaceae),サルコメニア亜科(Subfamily Sarcomenioideae),アヤギヌ連(Tribe Caloglosseae),アヤギヌ属(Genus Caloglossa) |
*1. 吉田(1998)「新日本海藻誌」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),真正紅藻亜綱(Subclass Florideophycidae),イギス目(Order Ceramiales),コノハノリ科(Family Delesseriaceae),アヤギヌ属(Genus Caloglossa)*「ササバアヤギヌ」として。C. vieillardiiを含むと考えられる。 |
*2. 吉田ら(2015)「日本産海藻目録(2015年改訂版)」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),イギス目(Order Ceramiales),コノハノリ科(Family Delesseriaceae),アヤギヌ属(Genus Caloglossa) |
*3. 熊野(2000)「世界の淡水産紅藻」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),ウミゾウメン亜綱(Subclass Nemaliophycidae),イギス目(Order Ceramiales),コノハノリ科(Family Delesseriaceae),アヤギヌ属(Genus Caloglossa)*「ササバアヤギヌ」として。C. vieillardiiを含むと考えられる。 |
Misapplied name |
Caloglossa leprieurii auct. non (Montagne) G. Martens (1924: 234, 237): Kamiya et al. 1995: 83-86. Figs 11, 13-15; 2003. 494-495; 吉田 1998: 966-967. Pl. 3-96, Figs D, E. p.p.; 熊野 2000: 308, 311. Pl. 163. Figs 2-4. Pl. 169, Figs 3-4. p.p.; 2002: 306-307. Pl. 190, Figs 2-4. Pl. 197, Figs 3, 4. p.p.; Kamiya 2004: 422-424. Figs 1-4, 7; Nam & Kang 2012: 11; 比嘉 2018: 599-600. |
環境省レッドリスト2020:準絶滅危惧(NT);沖縄県版レッドデータブック第3版(2018):準絶滅危惧(NT) |
分類に関するメモ:Caloglossa leprieuriiはササバアヤギヌと呼ばれてきましたが,Kamiya et al. (2003, 2004) は,C. leprieuriiとC. vieillardiiの分類を整理し,C. leprieuriiをセイヨウアヤギヌ,C. vieillardiiをササバアヤギヌとして区別しました。
Krayesky et al. (2011) は,"C. leprieurii"として公開されている日本産サンプルのrbcL遺伝子の配列(AY150323)が,C. leprieuriiとは系統的に離れていることから,セイヨウアヤギヌは,C. leprieuriiとは別種であり,未記載種である可能性を指摘しています。 |
静岡県南伊豆町青野川のセイヨウアヤギヌ |
潮間帯上部の岩上に生育している(円で囲った部分)。 |
撮影地:静岡県 賀茂郡 南伊豆町 青野川河口;撮影日:2010年1月16日;撮影者:吉﨑 誠 |
顕微鏡写真(採集地:静岡県 賀茂郡 南伊豆町 青野川;採集日:2009年12月28日;採集者:吉﨑 誠) |
撮影地:静岡県 賀茂郡 南伊豆町 青野川河口;撮影日:2014年5月15日;撮影者:鈴木雅大 |
押し葉標本(採集地:静岡県 賀茂郡 南伊豆町 青野川河口;採集日:2014年5月15日;採集者:鈴木雅大) |
青野川は伊豆半島南部に位置し,天神原から弓ヶ浜に至る川です。青野川の汽水域には,オオイシソウ(Compsopogon caeruleus),アヤギヌ(Caloglossa continua),ホソアヤギヌ(C. ogasawaraensis),タニコケモドキ(Bostrychia simpliciuscula)などの紅藻類が生育しています。2008年から2011年にかけて青野川の汽水域に生育する紅藻類を対象とした生育調査が行われたことがあり,著者も何度か調査に参加させて頂きました。著者の恩師,故吉﨑誠博士(東邦大学 名誉教授)が中心となって実施された調査で,セイヨウアヤギヌ(C. leprieurii)はその調査の中で見つかったものです。セイヨウアヤギヌは,亜熱帯域や熱帯域に多くみられる紅藻類で,日本では沖縄などの南西諸島に分布しています。南西諸島に分布する種が伊豆半島で見つかったのは驚くべきことで,青野川は「セイヨウアヤギヌの北限」と考えられます。注目すべき新産地として正式に報告してもよいかもしれないのですが,青野川のセイヨウアヤギヌの分布については,人為的な移入の可能性を考慮する必要があります。青野川河口には1959年に種子島から移植されたというメヒルギの群落があり,いわゆるマングローブ林があります(桝田 1999)。アヤギヌ類はマングローブ域に群落を形成する「マングローブ藻類」であるため,移植したメヒルギにセイヨウアヤギヌの藻体あるいは胞子(果胞子や四分胞子)が付着しており,それが青野川河口に移入,定着したという可能性が考えられます。青野川の紅藻類の分布や生育状況に関する過去の記録は無いので,セイヨウアヤギヌがマングローブの移植前から青野川に自然分布していた可能性も否定出来ませんが,現在のところ青野川以外の本州太平洋沿岸や四国沿岸でセイヨウアヤギヌが見つかっていないことから,人為的な移入の可能性は低くないと思います。種子島及び南西諸島で採集したセイヨウアヤギヌとの比較,特にDNA配列を用いた系統地理学的な解析が必要だと思います。 |
参考文献 |
Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2011. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 16 December 2011. |
比嘉 敦 2018. セイヨウアヤギヌ.In: 改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物 第3版(菌類編・植物編)-レッドデータおきなわ-.pp. 599-600. 沖縄県環境部自然保護課,沖縄. |
Kamiya, M. 2004. Speciation and biogeography of the Caloglossa leprieurii complex (Delesseriaceae, Rhodophyta). Journal of Plant Research 117: 421-428. |
Kamiya, M., Tanaka, J. and Hara, Y. 1995. A morphological study and hybridization analysis of Caloglossa leprieurii (Ceramiales, Rhodophyta) from Japan, Singapore and Australia. Phycological Research 43: 81-91. |
Kamiya, M., Zuccarello, G.C. and West, J.A. 2003. Evolutionary relationships of the genus Caloglossa (Delesseriaceae, Rhodophyta) inferred from large-subunit ribosomal RNA gene sequences, morphological evidence and reproductive compatability, with description of a new species from Guatemala. Phycologia 42: 478-497. |
Kamiya, M., Zuccarello, G.C. and West, J.A. 2004. Phylogeography of Caloglossa leprieurii and related species (Delesseriaceae, Rhodophyta) based on the rbcL gene sequences. Japanese Journal of Phycology 52 (suppl.): 147-151. |
Krayesky, D.M., Norris, J., West, J.A. & Fredercq, S. 2011. The Caloglossa leprieurii-complex (Delesseriaceae, Rhodphyta) in the Americas: the elucidation of overlooked species based on molecular and morphological evidence. Cryptogamie Algologie 32: 37-62. |
熊野 茂 2000. 世界の淡水産紅藻.395 pp. 内田老鶴圃,東京. |
Martens, G. von 1869. Beiträge zur Algen-Flora Indiens. Flora 52: 233-238. |
Kumano, S. 2002. Freshwater red algae of the world. 375 pp. Biopress Limited, Bristol. |
桝田信彌 1999. 静岡県南伊豆町青野川のマングローブ植林について.Macro Review 11: 63-70. |
Nam, K.W. and Kang, P.J. 2012. Algal flora of Korea. Volume 4, Number 7 Rhodophyta: Florideophyceae: Ceramiales: Delesseriaceae: 22 genera including Acrosorium. 129 pp. National Institute of Biological Resources, Incheon. |
吉田忠生 1998. 新日本海藻誌.1222 pp. 内田老鶴圃,東京. |
吉田忠生・鈴木雅大・吉永一男 2015. 日本産海藻目録(2015年改訂版).藻類 63: 129-189. |
>写真で見る生物の系統と分類 >真核生物ドメイン >スーパーグループ アーケプラスチダ >紅藻植物門 >真正紅藻綱 >マサゴシバリ亜綱 >イギス目 >コノハノリ科 |
>日本産海藻リスト >紅藻植物門 >真正紅藻亜門 >真正紅藻綱 >マサゴシバリ亜綱 >イギス目 >コノハノリ科 >サルコメニア亜科 >アヤギヌ連 >アヤギヌ属 >セイヨウアヤギヌ |
「生きもの好きの語る自然誌」のトップに戻る |
© 2011 Masahiro Suzuki |