オオバツノマタ Chondrus giganteus
 
作成者:鈴木雅大 作成日:2011年11月18日(2022年7月29日更新)
 
オオバツノマタ(大葉角叉)
Chondrus giganteus Yendo 1920: 4.
 
紅藻植物門(Phylum Rhodophyta),真正紅藻亜門(Subphylum Eurhodophytina),真正紅藻綱(Class Florideophyceae),マサゴシバリ亜綱(Subclass Rhodymeniophycidae),スギノリ目(Order Gigartinales),スギノリ科(Family Gigartinaceae),ツノマタ属(Genus Chondrus
 
*1. 吉田(1998)「新日本海藻誌」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),真正紅藻亜綱(Subclass Florideophycidae),スギノリ目(Order Gigartinales),スギノリ科(Family Gigartinaceae),ツノマタ属(Genus Chondrus
*2. 吉田ら(2015)「日本産海藻目録(2015年改訂版)」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),スギノリ目(Order Gigartinales),スギノリ科(Family Gigartinaceae),ツノマタ属(Genus Chondrus
 
掲載情報
Mikami 1965: 253. Figs 39-44. Pl. 6; Yoshida 1991: 6. PL. 26b; 1998: 688. Pl. 3-46, Fig. C; Nam & Kang 2015: 37-43. Figs 29-35.
 
Homotypic synonym
  Chondrus ocellatus Holmes f. giganteus (Yendo) Okamura 1932: 85. Pl. 291, Fig. 3. Pl. 293, Fig. 1; 1936: 655. Fig. 311..
その他の異名
  Chondrus ocellatus var. ? in 岡村 1902: 24; 1916. 29.
  Chondrus sp. in 遠藤 1911: 592. Fig. 165.
 
Type locality: 千葉県 銚子市 犬吠埼
Lectotype specimen: TI herb. Yendo(東京大学植物標本庫)*SAP(北海道大学大学院理学研究院植物標本庫)に永久貸与
 
オオバツノマタ Chondrus giganteus
撮影地:千葉県 いすみ市 大原 丹ヶ浦;撮影日:2016年4月27日;撮影者:鈴木雅大
 
オオバツノマタ Chondrus giganteus
撮影地:千葉県 銚子市 長崎町 酉明浦;撮影日:2017年5月14日;撮影者:鈴木雅大
 
オオバツノマタ Chondrus giganteus
押し葉標本(採集地:千葉県 銚子市 犬若;採集日:2001年6月10日;採集者:鈴木雅大)
 
オオバツノマタ Chondrus giganteus
押し葉標本(採集地:千葉県 銚子市 外川町 畳岩;採集日:2004年10月29日;採集者:鈴木雅大)
 
分岐が少なく,大型になるツノマタ類です。千葉県銚子や千葉県いすみ市などで良く見られます。良く分岐するものは,後述する品種ウチワツノマタ(Chondrus giganteus f. flabellatus)として区別されていますが,遺伝子解析の結果を見ると,千葉県銚子(タイプ産地)のオオバツノマタと,東北地方や瀬戸内海のウチワツノマタとは遺伝的差異がほとんどなく,両者の違いは地域ごとの形態変異と考えられます。
 
ウチワツノマタ(団扇角叉)
Chondrus giganteus Yendo f. flabellatus Mikami 1965: 256, pl. VII, 1.
 
Type locality: 青森県 大間
Holotype: SAP
 
オオバツノマタ Chondrus giganteus
 
オオバツノマタ Chondrus giganteus
撮影地:兵庫県 洲本市 由良(淡路島);撮影日:2015年5月7日;撮影者:鈴木雅大
 
オオバツノマタ Chondrus giganteus
撮影地:兵庫県 洲本市 由良(淡路島);撮影日:2016年6月4日;撮影者:鈴木雅大
 
オオバツノマタ Chondrus giganteus
撮影地:徳島県 鳴門市 北灘町 牛の鼻;撮影日:2018年4月26日;撮影者:鈴木雅大
 
オオバツノマタ Chondrus giganteus
撮影地:兵庫県 淡路市 岩屋 田ノ代海岸(淡路島);撮影日:2022年7月29日;撮影者:鈴木雅大
 
オオバツノマタ Chondrus giganteus
撮影地:兵庫県 洲本市 由良(淡路島);撮影日:2015年7月3日;撮影者:鈴木雅大
 
オオバツノマタ Chondrus giganteus
採集地:岩手県 下閉伊郡 山田町 浦の浜;採集日:2011年3月5日;採集者:鈴木雅大
 
オオバツノマタ Chondrus giganteus
押し葉標本(採集地:岩手県 下閉伊郡 山田町 織笠漁港;採集日:2007年6月27日;採集者:鈴木雅大)
 
分枝が多く扇形になるものをオオバツノマタの品種,ウチワツノマタ(Chondrus giganteus f. flabellatusとして区別しています。東北地方や瀬戸内海ではこのタイプのオオバツノマタ(= ウチワツノマタ)がほとんどです。オオバツノマタは,千葉県銚子(オオバツノマタのタイプ産地)や千葉県大原,神奈川県江ノ島などで見られるような分枝が少なく,体が大型で長刀状のようになるのが典型的と考えられています。関東地方の「オオバツノマタ」と東北地方や瀬戸内海の「ウチワツノマタ」を比べると,両者は品種というよりも種レベルで異なるのではないかとの印象を受けます。著者はオオバツノマタとウチワツノマタは別種ではないかと思い,両者の遺伝子解析を行ったことがあるのですが,結果は著者の予想を大きく外れ,「オオバツノマタ」と「ウチワツノマタ」とは遺伝的差異がほとんどなく,同種とみなすのが妥当という結論に至りました。紅藻類の中には,ヒラムカデ("Grateloupia" lividaダルス(Devaleraea inkyuleeiのように信じ難い形態変異を見せるものがあり,ツノマタ類についても形態変異の激しい仲間だということは重々承知していたつもりですが,またしても予想を裏切られる結果に頭を抱えました。形として区別する場合に限り,品種ウチワツノマタを用いることは問題ないと思いますが,実際のところオオバツノマタとウチワツノマタを区別している文献は少なく,瀬戸内海周辺地域では「ウチワツノマタ型」のものを典型的なオオバツノマタと認識している人も少なくないことから,両者を区別せず「オオバツノマタ」に統一して扱うのが混乱が無くて良いだろうと思います。
 
オオバツノマタ Chondrus giganteus   オオバツノマタ Chondrus giganteus
雄性配偶体
 
オオバツノマタ Chondrus giganteus
雄性配偶体の横断面 *精子嚢が分からないので機会を見て差替える予定
 
オオバツノマタ Chondrus giganteus
 
オオバツノマタ Chondrus giganteus   オオバツノマタ Chondrus giganteus
雌性配偶体
 
オオバツノマタ Chondrus giganteus
嚢果の横断面 *嚢果らしく見えないので機会を見て差替える予定
 
オオバツノマタ Chondrus giganteus   オオバツノマタ Chondrus giganteus
四分胞子体
 
オオバツノマタ Chondrus giganteus
四分胞子を形成した箇所の横断面
 
ツノマタの仲間は雌雄配偶体と胞子体を肉眼で区別出来るので,臨海実習の観察テーマの一つとして使われます。著者が関東地方に居た時は,イボツノマタ(Chodrus verrcosusネジレツノマタ(C. retortusを使っていましたが,2015年に淡路島に移った時は,本種が至る所に生えていることから本種を使ってみました。意外だったのは四分胞子体の胞子嚢形成部位の大きさで,パッチ状に見える胞子嚢斑が大きく,嚢果と間違えるほどでした。生殖斑の大きさも種によって違いがあるということを理解しました。
 
参考文献
 
Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2011. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 18 November 2011.
 
Mikami, H. 1965. A systematic study of the Phyllophoraceae and Gigartinaceae from Japan and its vicinity. Scientific Papers of the Institute of Algological Research, Hokkaido University 5: 181-285.
 
Nam, K.W. and Kang, P.J. 2015. Algal flora of Korea. Volume 4, Number 11. Rhodophyta: Florideophyceae, Gigartinales: Gigartinaceae: Cystocloniaceae, Kallymeniaceae. Marine red algae. 146 pp. National Institute of Biological Resources, Incheon.
 
岡村金太郎 1902. 日本藻類名彙.276 pp. 敬業社,東京.
 
岡村金太郎 1916. 日本藻類名彙 第2版.362 pp. 成美堂,東京.
 
岡村金太郎 1932. 日本藻類圖譜 第6集 第9巻.東京.*自費出版
 
遠藤吉三郎 1911. 海産植物学.748 pp. 博文館,東京.
 
Yendo, K. 1920. Novae algae japoniae. Decas I-III. Botanical Magazine, Tokyo 34: 1-12.
 
Yoshida, T. 1991. Catalogue of the type specimens of algae preserved in the herbarium, Department of Botany, The University Museum, The University of Tokyo. The University Museum, The University of Tokyo Material Reports No. 24. 17 pp. 67 pls.
 
吉田忠生 1998. 新日本海藻誌.1222 pp. 内田老鶴圃,東京.
 
吉田忠生・鈴木雅大・吉永一男 2015. 日本産海藻目録(2015年改訂版).藻類 63: 129-189.
 
 
写真で見る生物の系統と分類真核生物ドメインスーパーグループ アーケプラスチダ紅藻植物門真正紅藻綱マサゴシバリ亜綱スギノリ目スギノリ科
 
日本産海藻リスト紅藻植物門真正紅藻亜門真正紅藻綱マサゴシバリ亜綱スギノリ目スギノリ科ツノマタ属オオバツノマタ
 
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