ネジレツノマタ Chondrus retortus
 
作成者:鈴木雅大 作成日:2013年10月25日
 
ネジレツノマタ(捩れ角叉)
Chondrus retortus Ka. Matsumoto & Sa. Shimada 2013: 305-306. Figs 17-31.
 
紅藻植物門(Phylum Rhodophyta),真正紅藻亜門(Subphylum Eurhodophytina),真正紅藻綱(Class Florideophyceae),マサゴシバリ亜綱(Subclass Rhodymeniophycidae),スギノリ目(Order Gigartinales),スギノリ科(Family Gigartinaceae),ツノマタ属(Genus Chondrus
 
*1. 吉田ら(2015)「日本産海藻目録(2015年改訂版)」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),スギノリ目(Order Gigartinales),スギノリ科(Family Gigartinaceae),ツノマタ属(Genus Chondrus
 
Type locality: 神奈川県 藤沢市 江ノ島
Holotype specimen: TNS-AL 180675 (国立科学博物館植物研究部標本庫)
 
ネジレツノマタ Chondrus retortus
撮影地:神奈川県 大磯 照ヶ崎;撮影日:2012年3月26日;撮影者:横澤敏和
 
ネジレツノマタ Chondrus retortus
雄性配偶体(採集地:神奈川県 三浦市 三崎町 荒井浜;採集日:採集者:鈴木雅大)
 
雄性配偶体は精子嚢を密生するため体の色が薄くなります。
 
ネジレツノマタ Chondrus retortus
雄性配偶体の横断面 *ひどい写真なので機会があれば差し替えます。
 
ネジレツノマタ Chondrus retortus
雌性配偶体(採集地:神奈川県 三浦市 三崎町 荒井浜;採集日:採集者:鈴木雅大)
 
 嚢果が体表面に突出します。
         
  ネジレツノマタ Chondrus retortus   ネジレツノマタ Chondrus retortus  
四分胞子体(採集地:神奈川県 三浦市 三崎町 荒井浜;採集日:採集者:鈴木雅大)
 
四分胞子嚢群がパッチ状に散在します。
 
ネジレツノマタ Chondrus retortus
四分胞子体の横断面 *ひどい写真なので機会があれば差し替えます。
 
ネジレツノマタ Chondrus retortus
 
ツノマタの仲間は,磯の普通種なので入手が容易なことと,雌雄配偶体と胞子体とを肉眼で区別出来るので,実習の観察材料として良く使います。ただし,それぞれの生殖器官の詳細を観察するのが難しいという欠点もあります。
 
本種は,これまでイボツノマタ(Chondrus verrucosusと同定されてきましたが,Matsumoto & Shimada (2013) は本種をイボツノマタと区別し,新種として記載しました。本種とイボツノマタを巡る分類の歴史は複雑です。岡村 (1932) は,ツノマタ(C. occelatusの品種として「コマタ C. ocellatus f. canaliculatus」を記載しました。Mikami (1965) は,「コマタ= C. ocellatus f. canaliculatus」はツノマタとは別種のツノマタ属の未成熟個体(若い個体)と考え,新たにイボツノマタを記載し,コマタはイボツノマタの異名同種(シノニム)となりました。通常ならばC. ocellatus f. canaliculatusを品種から種の階級に上げるところですが,C. canaliculatusという種類が既に記載されているので,命名法上,新名(置換名)として記載する必要があり,Mikami (1965) は「コマタ = C. ocellatus f. canaliculatus」をC. verrucosusという名前で記載しました。この場合,新種の基準となるタイプ標本は,岡村 (1932)のC. ocellatus f. canaliculatusの標本を用いるのが通例ですが,Mikami (1965) は上述の通り,「コマタ」を未成熟個体と考えていたので,C. ocellatus f. canaliculatusのタイプ標本をC. verrucosusのタイプ標本とはせず,新たに千葉県銚子市犬吠埼で採集したサンプルをタイプ標本とし,和名も「コマタ」ではなく「イボツノマタ」としました。

Matsumoto & Shimada (2013) は江ノ島で採集したサンプルをタイプ標本としてC. retortusを記載しました。論文中で挙げた和名が「コマタ」であることと,藻体が小型であるという記載から,「コマタ C. ocellatus f. canaliculatus」を指していると予想されますが,論文中でC. ocellatus f. canaliculatusC. retortusの関係について触れられておらず,タイプ標本もC. ocellatus f. canaliculatusとは異なることから,命名法上,「コマタ C. ocellatus f. canaliculatus」と「"コマタ" C. retortus」は別の種となります。このため,イボツノマタの異名同種である「コマタ C. ocellatus f. canaliculatus」と「"コマタ" C. retortus」という同じ和名が混在することとなってしまいました。混乱を避けるため,吉田ら (2015) においてC. retortusの和名を「ネジレツノマタ」としたことでこの問題は解決しましたが,「コマタ C. ocellatus f. canaliculatus」はC. retortusではなく,イボツノマタの異名同種のままとなってしまいました。

「コマタ = C. ocellatus f. canaliculatus」に関する岡村(1932)の記載はイボツノマタとの明確な違いを示していないことから,Matsumoto & Shimada (2013) が分子系統解析に用いたサンプルを新たにタイプ標本として指定した分類学的判断は正しいと思います。ただ,論文中で新たなタイプ標本を指定する理由を述べるか,C. retortusC. ocellatus f. canaliculatusの置換名であると述べる,もしくは歴史的背景を考慮し,C. retortusのタイプ標本を正基準標本(Holotype)ではなく「コマタ = C. ocellatus f. canaliculatus」のエピタイプ(Epitype)として指定しておけば,コマタとイボツノマタの分類を異論なく整理出来ていたと思います。著者の個人的な見解では,吉田ら (2015) の中で新和名を提唱するよりも,異名(シノニム)リストとして,「"コマタ" C. retortus」の下に「コマタ C. ocellatus f. canaliculatus」を挙げ,和名も「コマタ」とするのが最も妥当な解決策だったと思います。異名と和名について疑義が残ってしまったのが残念なところです。
 
イボツノマタをはじめとするツノマタ属(Chondrus)の外部形態は激しく変化するため,本種とイボツノマタ及び他の近似種とを形態的に区別するのは容易ではありません。Matsumoto & Shimada (2013) は,本種をイボツノマタと区別する形態的特徴として,果胞子体を囲む糸状細胞の形態の違いを挙げています。著者はスギノリ科の専門家ではないこともあり,Matsumoto & Shimada (2013) が写真で示した「果胞子体を囲む糸状細胞の形態」の様子は良く分かりませんでしたが,分子系統解析も含めて,本種の種としての独立性は確かなものだと思います。今後は,本種を現地でどのように種同定するか,イボツノマタをはじめとする他種との明確な区別方法,特に紅藻類の専門家でなくても理解しやすい種同定の特徴などが課題となると思います。ムカデノリ(Grateloupia asiaticaヒロハノムカデノリ(Grateloupia subpectinataを巡る状況と良く似ていますが,イボツノマタと考えられていた種の中から新種を発見・記載したのは,日本沿岸の海藻の「種」を正しく認識する上で,とても重要な仕事だと思います。
 
参考文献
 
Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2013. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 25 October 2013.
 
Matsumoto, K. and Shimada, S. 2013. Taxonomic reassessment of Chondrus verrucosus (Rhodophyta, Gigartinales), with a description of Chondrus retortus sp. nov. Phycological Research 61: 299-309.
 
Mikami, H. 1965. A systematic study of the Phyllophoraceae and Gigartinaceae from Japan and its vicinity. Scientific Papers of the Institute of Algological Research, Hokkaido University 5: 181-285.
 
岡村金太郎 1932. 日本藻類圖譜 第6巻 第9集.東京.*自費出版
 
吉田忠生・鈴木雅大・吉永一男 2015. 日本産海藻目録(2015年改訂版).藻類 63: 129-189.
 
 
写真で見る生物の系統と分類真核生物ドメインスーパーグループ アーケプラスチダ紅藻植物門真正紅藻綱マサゴシバリ亜綱スギノリ目スギノリ科
 
日本産海藻リスト紅藻植物門真正紅藻亜門真正紅藻綱マサゴシバリ亜綱スギノリ目スギノリ科ツノマタ属ネジレツノマタ
 
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